５８　SHINKA　　Take it easy

心にすきま風・・・


…お得意様にお詫びにいく・・・

いつになっても･･お詫びはつらいな・・・



得意先様の･･自転車置き場に・・・

見覚えのある｢本」があった・・・


・・・｢標準　バイエル」・・・初心者のピアノの教本だ・・・

まあ・・私が使ってるのだから・・・・見覚えもあって当然だ・・・


・・「なんで・・こんなとこに・・・子供が忘れたのか・・・」


中を開いてみると・・・赤鉛筆で・・書き込んだ･･勉強のあとが・・・

･･大人の字体だ・・・

｢ん…ピアノの先生の･･本か？」


・・しばらくして・・・

「すいませーん・・その本･･私のなんです・・・」

私の･･後ろで･･女性の声がした・・・


振り返ると･･

３０歳くらいの・・女性が･･にこやかに･･立っていた・・


お得意様の会社の制服を着ていた･･彼女は・・

森昌子に似ていた・・・


私は･･慌てて・・・本を･･渡した・・・

「すいません･･中･･見ました･･バイエル６０番まで・・赤鉛筆・・

ありましたね・・・」

と･･微笑んで彼女に言った・・


「へえ・・・あなたも・・ピアノ・・なさるの？」

彼女は・・大きな目を丸くして・・私に聞いた・・・


｛し・・しまった！！｝

私は・・とっさに・・・

「いえいえ！！・・・娘の・・教本と同じなんで・・・」

と・・ごまかした・・・



彼女は・・・いたずらっぽく・・笑いながら・・・

「あなた・・・会議室で・・・叱られてた･･営業の人でしょ・・」

と・・私の顔を･･覗き込んだ・・・


「はい・・・いろいろ・・ご迷惑・・おかけしました・・・」

私は・・最敬礼して・・頭をさげた・・・



彼女は・・やはり･･微笑んだまま・・・

｢ストレス･･たまる･･お仕事ですよね・・・

ピアノ・・なさったら・・いかがです・・・」

と・・もう一度･･私の顔を覗き込んだ・・・



ここで・・・「いや・・じつは・・やってるんです！！」

と･･言えない・・おろかな･･私がいる・・・


「ハハ･･まあ･･気が向いたら・・・」

それだけ･･言うと･･彼女に頭を下げ・・・

得意先を後にした・・・



…数日後・・・

家族で・・大手デンキ店へ行く・・・


･･基本的に｢人ごみ」の嫌いな私は・・・

いつもの場所へ・・・

そう…電子ピアノ売り場だ・・・



･･ここは･･たくさんの･･機種が･･見れる・・・

ピアノは見るだけでも・・・楽しい・・・


･･｢ふーん･･また･･新しいの・・でたのか・・・」

新機種のピアノに近寄って・・・

今･･練習中の・・「コントラダンス」・・を演奏してみた・・・


おお！･･今日は･･調子がいい！！・・・

片足の靴を脱いで…ペダルにも･･足をかけた・・・

･･迷惑かも・・しれないが・・・「よしあきコンサート」だ・・・


そのとき・・・

「・・・えいぎょうさん・・・」

･･私の･･後ろで･･声がした・・・・


　　　　　　・・・・・・・・・・・つづく・・・・・・・・・・と・おもうよ・・・・